1930年代のオーストリア。修道院から家庭教師として派遣されたマリアが、持ち前の天真爛漫さと明るい歌声で派遣先のトラップ家の子どもたち、そして父親のトラップ男爵の心を開いていく…と言えば、多くの人がジュリー・アンドリュース主演の映画『サウンド・オブ・ミュージック』を思い出すはず。マリア・フォン・トラップによる自伝が下敷きになっているとは言え、ここまで映画の印象が強い話をアニメ化したということで、「世界名作劇場」としてはかなり異色な部類に入る1991年放送作品だ。 天衣無縫で慈愛に満ちたマリアと7人の子どもたちが心を通わせていく過程は、これぞ「世界名作劇場」の醍醐味と言えそうなゆったりとした優しさに満ちている。マリアが家庭教師として過ごすこの9か月間を、実際の放送の際も約9か月で消化したのというのも、なかなかにユニーク。視聴者としても、それだけの長い時間をともに過ごしてきた後なら、マリアとトラップ男爵の結婚にすんなり納得できようというもの。 その後の一家の運命は急展開。最終回は、一家がナチスから逃れてアメリカに亡命するという、思わず手に汗握る話になる。家族のきずな、そして人間の尊厳というテーマにも踏み込んだ、穏やかな中にも硬派な魅力のある作品だ。(安川正吾)
子供はダメな大人も肥やしにして…
とはVOL.2のマリアのコトバですが、本作と本家サウンドオブミュージックとの大きな違いを象徴しているものに、物語冒頭部における7人の子供たちの“閉ざした心”の原因の扱いがあります。本家の理由付けが、シンプルに厳格な家訓と母を亡くした喪失感だけに留まっているのに対して、この“トラップ一家物語”では、最大の理由付けとして母を亡くした後に雇った家庭教師達が、雇い主の表面的な評価を得るために子供たちを悪用しようとしてしまったことからくる、“大人達の汚れた心・欺瞞への嫌悪”というオリジナルエピソードが追加されています(尚、この後に、マリアが“大人を信じられないのよね…覚えがあるなあ…”と言いながら、自分が虐待された記憶を回想するシーンが挿入されます)。 このエピソードを発端として、この後もトーンの明るいメインストーリーの影で、頻繁に“絆とは?”とか、“幸せのかたちとは?”とか、“本当の友達とは?”などと言った、極めて現代的でとても共感できるテーマを問いかけ、それらの問いかけにこの作品ならではの答えを導きだしたところに、この―世界名作劇場“トラップ一家物語”―としての素晴らしいところがあると思います。 幸せも束の間、突如として襲った銀行の破産による全財産の損失。 離れてゆく“友人たち”のなかで、ゲオルグは何を失いそして何を得たのか―。 ―それはきっと、観ている側にとっても、とても身近なことなのでしょう。
バンダイビジュアル
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